何故、紬は正装にならないのか?
着物の世界には様々なしきたりがある。
その一つに、紬はどんなに高価であっても正装にはならない、というものがある。
紬は、紬糸という絹の中でも品質の悪い糸を用いた織物である。ついでに言えば、ほとんどが糸を先に染めてから織ってゆく。
この写真の茶色の方は御召と呼ばれるものであり、グレーが紬である。何となく、節だっているのが分かると思う。
この、紬はあくまでも普段着であり、結婚式のような改まった席に着て行ってはならないと言われている。
その理由の一つに、紬は元々が野良着だったいう説がある。
僕は服飾の専門家ではないから良く分からないが、紬といっても絹物であり、絹物を野良着に使うなんてことが、本当にあったのだろうか?大いに疑問である。
違う理由として、江戸時代、庶民に絹の着用が許されていない時に、裕福な商人達が絹ではないと言い張って着たのが紬である、というものがある。
要は庶民の着物であり、正式な場には相応しくないというのであるが、「そんなことを言うあんたは庶民じゃないのか?」と突っ込みたくなる。
ネットの質問コーナーなどをみると、
「大島紬を結婚式に着ていってもいいでしょうか?」という質問に、
「紬はどんなに高価でも普段着です。あなたはビンテージのジーンズで結婚式に行きますか?紬を着て結婚式に行くのはそれと同じです」という答えをしている人がいた。
この人は、とてもしゃれた答えをしている積りかもしれない。しかし、大前提としての紬とジーンズは同じようなものだと考え方が、前述したように正しいとは思えない。
また、大島紬は紬というけれども、そもそも紬糸で織られている訳ではなく、厳密にいえば紬ではない。
これが大島紬であるが、先ほどの写真と比べると、質感が全く違うことが分かるのではないだろうか?触れてみても、大島はツルツルとしている。
さらに、紬糸で織られていても、ほとんど節がない紬もある。つまりは、紬といっても紬ではない紬もあれば、紬とは思えないような紬もある。
「紬は正装にならない」という言葉は、紬という言葉が厳密に定義されている訳ではなく、単に言葉が独り歩きしているだけである。
それでは、上の写真の大島を着て結婚式に行くかと聞かれたら、私は行かないと答える。大島紬だからではない。色合いや文様が僕の感性では結婚式に向かないと思うからである。
写真の大島を着ていく位であれば、最初に挙げたグレーの着物を選ぶ。グレーの着物は完全な紬ではあるが・・・。
結婚式を含め、様々な場には、それに相応しい服装は当然あると思う。
ただ、「紬は正式な場に相応しくない」という考え方は、誰が言い出したのかは知らないが、完全に間違っているのではないか。